韓国の小学校では、20年以上も前から英語教育に力を入れていた!
韓国では、1997年の英語教育改革によって、小学校3年生以上で英語が必修科目になりました。日本でも2020年から小学校3年生以上で英語の授業が始まりましたが、その20年以上も前から、韓国では小学校での英語学習の強化が始まっていたということですね。
●韓国の小学校:3・4年生 週 2時間、5・6年生 週 3時間 ※2019年時点
●日本の小学校:3・4年生 週 1時間、5・6年生 週 2時間 ※2020年以降
授業レベルも高く、韓国の小学校6年生の英語の授業は、日本の中学2年生レベル(2020年までの旧カリキュラム)に相当するほどだそう。
では、実際にどんな授業が行われているのでしょうか?
韓国の小学校では、どんな「英語の授業」が行われているの?
韓国の小学校では、「コミュニケーションを重視した英語の授業」を積み重ねています。学習内容も、単語や文法の暗記式ではなく、リスニングやスピーキング、ライティングなど、実際に英語を使いこなせるようになるためのカリキュラムとなっています。
◇英語を効果的に学ぶための「環境」づくり
1つの大きな特徴となっているのが、授業をする環境。英語を生徒が主体的に学べるように、より集中しやすく、より理解しやすくするための環境づくりに力を入れています。例えば、空港やショッピングセンターなどを再現した英語の授業専用の「特別教室」。海外に行ったときに遭遇するシーンをイメージして、そこで実際に行われるような英会話を疑似体験を通じて学ぶこともあります。
近年ではICT(情報通信技術)の活用が進んでいて、先生が英語の授業を効果的に展開するための、パソコン、プロジェクター、電子黒板などが常設された環境も一般的になっているとのこと。教科書に準拠したデジタルコンテンツも充実していて、紙の教科書の中にとどまらず、目や耳からも多角的に学べる英語の授業が標準化されています。
◇授業展開
子どもたちの関心を高めたり、理解がしやすくなるための工夫は、授業展開の仕方にも盛り込まれています。学校や学年ごとに多少の違いはありますが、ICTを活用しながら、「ウォームアップ」→「新しい内容の学習」→「英語での言語活動を、子どもが主体的に行う」という定型化された流れがあるため、授業の質としても安定感があるそうです。
<小学校4年生の英語の授業の例>
①ウォームアップ
YouTubeのアニメ動画をプロジェクターに映して、クラスみんなで見ながらネイティブの英語をリスニングしたり、アニメの歌を英語で歌ったりして、「英語の時間」に気持ちを切り替える。
②前の授業の復習と、今日の授業のテーマをおさえる
デジタルコンテンツ(※1)を使用して、絵の内容に合う単語や表現を英語で答えて、前の授業の語彙を復習。その後、簡単に今日の授業のテーマを紹介。
※1:先生が授業の進行に合わせてパソコンを操作し、授業の内容を理解しやすくするための画像や、アニメーションを使った説明、動画などをプロジェクターで映し出していきます。視覚や聴覚を使って理解の促進を図るだけでなく、生徒の集中力を高める効果もあります。
③デジタルコンテンツを使ったクイズ
今日の授業のキーセンテンスに親しむためのクイズを取り入れ、子どもたちは音声やジェスチャーで回答する。正解の絵だけが残ったり、生徒に人気のアニメキャラクターが登場したりなど、ゲーム感覚で楽しみながら授業に集中していく。
④教科書準拠のデジタルコンテンツ
教科書の内容に合わせたデジタルコンテンツを使用して、新しい語彙や表現を学習する。実生活の中でよくあるシーンが題材となっており、「まずは字幕なしで見て、会話の流れを理解する」→「英語の字幕ありで見て、全員で会話をリピートする」→「役割分担をして、各自が自分の役のセリフを担当しながらリピートする」など、じっくりと「聞く」・「話す」の練習をする。
⑤子どもたち同士で今日のキーセンテンスを使ってゲーム
自分たちでゲームにして遊ぶことで、理解の定着を図ったり、実際に使えるようになる練習をする。
⑥復習のデジタルコンテンツ
今日学んだ表現が使われている動画を視聴して、授業のおさらい。
放課後は週3~5日、英語塾やオンライン英会話レッスンで学ぶ!
韓国の小学校の英語の授業は、体系立てられた教え方や、環境の充実などで、質の高さや安定感に定評があることがわかりました。でも実は、韓国の子どもたちは「放課後」もかなり頑張って英語を学んでいるんです。2000年以降、韓国では小・中・高校生の約40%が海外留学を経験しているというデータがあり、特に小学生での親子留学が多いそう。ただやはり、海外留学には相当な費用がかかってくるため、富裕層の家庭が中心となっています。
では、一般家庭の子どもたちはどうしているのでしょうか?答えは、英語塾やオンライン英会話スクールで、週3~5日(1日あたり3~6時間)のレッスンを受けているそうです。韓国では、低学年のうちは毎日英語に慣れさせることを最優先して、英語の土台を作ってしまうという考え方があります。ネイティブ講師から英語オンリーで学ぶ授業を中心に、目的や内容に合わせて複数の塾を掛け持ちすることも普通とのこと。放課後は、学校の前に塾の通学バスがずらりと並ぶそう。
そのため、英語塾やオンライン英会話スクールが大変充実しており、進路やレベルに合わせて必要な英語力を身につけるために、様々なプログラムが提供されています。指導内容も、文法、リーディング、ライティング、スピーキングなどから、ディスカッション、SAT(アメリカの大学入試共通テスト)対策など、非常にハイレベルなものまで。また、発音や文法、会話、英語時事のリーディングなど、特に強化したいスキルに合わせた専門的な塾も増えてきているとのこと。
幼児期に英語を学び始めるところから、国内トップ大学や、海外の大学を目指すところまで、将来のために放課後にもたっぷりと英語を学び続ける生活をしている子どもが多いそうです。
そもそも、どうして韓国では英語教育が盛んになったの?その効果は?
実は韓国が英語教育に力を入れ始めたのには、ある大きな理由がありました。1997年に起きたアジア通貨危機により、韓国経済が非常に深刻な打撃を受けたことが、ビジネスと教育に変革をもたらしたのです。
韓国の通貨・ウォンが急落して経営難に陥った韓国企業は、生き残りをかけて続々とグローバル化を推し進め、サムスン電子やLGエレクトロニクスなどの世界的大企業へと成長していきました。これにより、韓国企業の大半を占める財閥系企業に就職するためには、世界でビジネスができるだけの高い英語力が必須条件に。どんなに高学歴であっても、英語ができなければ一流企業へ就職できないだけでなく、多くの企業でも就職の合否に英語力が関係してくるようになっていきました。
また、韓国は1994年に世界貿易機構(WTO)へ参加したことで、韓国社会全体での国際化の流れが加速していたこともあり、アジア通貨危機でのビジネスの変容も踏まえて、国としてのグローバル化政策が大々的に進められていきました。1997年の小学校の英語教育改革も、その1つです。こうした背景があるからこそ、世界で本当に使える(戦える)英語力を育成することを本気で目指し、試験のための暗記ではなく、「コミュニケーション」を重視した英語への転換が図られたということですね。
その結果として、20年を経た今、韓国の英語力は実質アジアNo.1にまでなりました。英語ができるようになると、仕事も進学も、もはや韓国国内にこだわる必要はなくなり、海外に出て活躍する人が増加。アメリカの超一流大学であるハーバード大学では、2017年の国外からの国別在籍者数で、韓国は2位(約300人)に!(1位は中国で約900人、日本は約100人。)英語を身につけることでフィールドが広がる、将来の選択肢を世界規模にできる、ということの実例を見せてくれているように感じますね。
韓国の成功事例は、これからの日本の英語教育のヒントになる!?Conclusion
お隣の国・韓国での英語教育が、まさかこれほど進んでいたなんて…。驚きと同時に、日本にとっては希望とも言えるかもしれません。韓国語と日本語は、文法的に近いものがあり、英語とは言語構造が大きく異なります。そして、2020年からの新学習指導要領において日本の小学校での英語教育が目指している、「コミュニケーションツールとしての英語力強化」にも通ずるところがたくさんあります。実際、日本の教育関係者の中にも、韓国での成功例や授業法を参考にしていきたいという意見が見られます。
英語が身につくと、その先にはどんな世界が広がっているのか。改めて考えるきっかけになる事例なのではないかなと思います。